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大阪地方裁判所 昭和50年(ワ)4750号 判決 1978年2月28日

大阪市東区谷町四丁目四番三―一四一四号

原告

藤沢明哲

同市東区瓦町二丁目三一番地

被告

ユニチカ興発株式会社

右代表者代表取締役

足立博

兵庫県尼崎市東本町一丁目五〇番地

被告

ユニチカ株式会社

右代表者代表取締役

小寺新六郎

右被告ら訴訟代理人弁護士

山中隆文

庄司好輝

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一申立

一  原告

1  被告らは各自原告に対し、金四八、七八〇円およびこれに対する昭和四八年九月一日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行の宣言。

二  被告ら

主文同旨。

第二主張

一  請求原因

1  原告は昭和四七年三月頃、被告ユニチカ興発株式会社(以下単にユニチカ興発と略称する。)が大阪市平野区平野宮町一丁目八番三号に建設して分譲販売した鉄骨鉄筋コンクリート造り一一階建共同住宅、メガロコープヒラノ三号棟延約一三、九八二平方メートル(以下本件マンションという。)一一階一一七〇号室七八・七七平方メートルを同被告会社から買受け、直接原告名義に保存登記を受けている。

なお右マンションの区分所有権の対象となる建物部分(専用部分)の分譲を受けた区分所有者は、原告の外一六三名である。

2  右被告会社は右マンションの分譲販売に際し、その敷地である右同所一二番八宅地三、九一三・四八平方メートルを建物区分所有者全員の共有とするものとし、建物専有部分に合して、専有部分床面積の総合計に対する各買受人の取得する専有部分床面積の割合に応じた右土地についての共有持分権をも販売したので、右土地は右建物区分所有者一六四名の共有であり、内原告は一〇四八一三四分の七八七七の共有持分権を取得し、これについての移転登記も経由している。

3  しかるに右被告会社は、右共有地の一部約三二五平方メートルを駐車場とし、二〇区画に分って、これに対する専用使用権を駐車場専用使用権なる名目で、一区画分四〇万円をもって、昭和四八年七月一六日から同年八月三一日までの間に、右マンション区分所有者二〇名に売渡し、合計金八〇〇万円を受領した。

4  右被告会社は、被告ユニチカ株式会社(以下単にユニチカと略称する。)の全額出資で設立された同社の子会社であり、その経営の実権を完全に同社に支配されていて、同社から離れて独立の法人としての実体はなく、実質的には同社の一部門にすぎないので、その法人格は否認さるべきである。

5  被告ユニチカ興発は前記八〇〇万円を右親会社である被告ユニチカに提供し、同被告会社はその情を知ってこれを受領着服した。

6  しかしながら被告らの領得した右金員は、被告ユニチカ興発において、何らの権限もなく原告ら右建物区分所有者一六四名全員の共有である土地に、他人のための専用使用権を設定して得た対価であり、右区分所有者全員の領託金に外らず、被告らがこれを領得するのは明らかに不当利得である。

7  よって原告は被告らに対し、不当利得の返還請求として、被告らの領得した金員の一六四分の一に相当する金四八、七八〇円およびこれに対する昭和四八年九月一日から支払済まで年五分の割合による金員を連帯して支払うよう求める。

二  請求原因に対する被告らの答弁

1  認否

請求原因1ないし3の事実(但し8中の期間の点を除く)は認める。

同4につき、被告ユニチカ興発が被告ユニチカの全額出資で設立された会社であることは認めるが、その余の事実は否認する。

同5の事実は否認する。

2  抗弁

原告主張の宅地三、九一三・四八平方メートルは、もと被告ユニチカの所有であったものを、被告ユニチカ興発が訴外東海興業株式会社と共同で買受けてその所有権を取得し(共有持分各二分の一)、その上に同社と共同で、本件マンションを建設するとともに附帯設備として駐車場を設置し、この駐車場には専用使用権を設定して、これを右マンション(土地付区分建物)の分譲に附帯して、その買主に分譲した。

右マンションの分譲に際しては、右駐車場専用使用権設定の事実およびその内容等を十分説明し、各買主は、これを十分知悉して、売主から右専用使用権の分譲を受けた者およびその譲受人に対し、その専用使用権を承認する旨約定して、土地付区分建物売買契約を締結した。

三  抗弁に対する原告の答弁

1  原告が本件マンションの分譲を受けるに当り、本件駐車場専用使用権の設定およびその内容を知悉していたとの事実は否認する。

2  再抗弁

被告ら主張の、駐車場専用使用権承認についての約定は、次の理由により無効である。

(一) 他人の共有地の一部を永久に無償で使用することを内容とする法定外の物権を創設するもので、物権法定主義を定めた民法一七五条に違反する。

(二) 右駐車場専用権は、買主が転出する場合には被告ユニチカ興発が買戻す旨約しているが、現に高額で転売されている例もあり、被告らは原告ら区分所有者の共有地の一部を永久に無償で使用して莫大な利益をあげ続け得るのに反し、原告らは共有地の一部を実質上喪失しながら、何らの利益、補償も得られないのであるから、公序良俗に反する。

第三証拠

一  原告

1  甲第一ないし第三号証、第四号証の一、二、第五号証、第六号証の一ないし一一提出。

2  原告本人尋問の結果援用

3  乙第一号証の三、第二号証の一、二の成立は認め、その余の乙号各証の成立は不知。

二  被告ら

1  乙第一号証の一ないし三、第二号証の一、二提出。

2  甲第一号証、第五号証の成立は不知、その余の甲号各証の成立は認める。

理由

一  請求原因1ないし3の各事実(但し3中の期間の点を除く)は当事者間に争いがない。

二  まず原告の被告ユニチカに対する請求について

請求原因4中の被告ユニチカ興発が被告ユニチカの全額出資によって設立された会社であるとの点は当事者間に争いがないが、被告ユニチカ興発の法人格否認に関するその余の事実についてはこれを認めるに足る証拠がなく、請求原因5の事実については、原告本人尋問結果中の一部原告主張にそう部分はにわかに措信し難く、他にこれを認めるに足る証拠がない。

そうすると、右被告に対する請求は、爾余の点について判断するまでもなく失当である。

三  次に、被告ユニチカ興発が原告に対する関係で、本件駐車場専用権を他の区分所有者に売却して、その対価を領得する権原を有したか否かの点につき判断するに、成立に争いのない乙第一号証の三、同第二号証の一、二、原告本人尋問の結果(但し、後記措信しない部分を除く)を総合すると、次の事実が認められる。

本件マンションの敷地三、九一三平方メートルは、もと被告ユニチカの所有者であったものを、被告ユニチカ興発が訴外一社と共同で買受けてその所有となし(但し未登記)その上に本件マンションを建設し、マンション分譲とともに右敷地もマンション区分所有者全員の共有とすることとして、各購入者との間に「土地付区分建物売買契約を締結した(土地については、被告ユニチカから各区分所有者に直接移転登記)。尚被告ユニチカ興発は右マンション建設に当っては、附帯施設として、分譲後右共有となる土地の一部に「分譲専用駐車場」および「専用庭(一部専用駐車場付、一階のみ)」を設置し、右分譲専用駐車場の専用使用権は一台分四〇万円でマンション区分所有者に分譲することとして、これらの事項を宅建業法三五条に基く重要事項説明書に記載し、右専用駐車場等の位置、面積等も添付の建物配置図等に記入の上、これを右売買契約締結に当って買主に交付した。原告もこれら書類を受領し、その内容を了知の上で右契約を締結している。更に右契約締結に際して作成された契約書(土地付区分建物売買契約書)上にも、右分譲専用駐車場および専用庭に関し、次のような条項が設けられており(第一〇条)、原告はこれを了承の上で右契約を締結した(因に、原告は自ら右専用駐車場専用使用権購入の申込をなしたが、希望者が多過ぎて、原告としてはこれを入手することができなかったのである)。

(一)  買主は一階部分にて建物専有部分に附属の庭のある住宅を売主より購入したものおよびその譲受人に対し、これら附属の庭の専用使用を承認する。

(二)  買主は土地の一部に番号を附し区画をなしたる駐車場の専用使用権を売主より分譲を受けたるものおよびその譲受人に対し、その専用使用を承認する。

原告本人尋問結果中の右認定に反する部分は措信し難い。

以上認定の事実によれば、原告外本件マンション区分所有者らは、分譲契約後は全区分所有者の共有となる本件土地の一部に売主たる被告ユニチカ興発が専用駐車場を設けていて、その専用使用権を区分所有者に代金四〇万円で分譲する権利を留保していることを了承し、右被告会社から右専用使用権を譲り受けたものが該専用駐車場を駐車場として専用使用する権利があり、各区分所有者としてはこれを受認すべき義務があることをも契約内容として、各土地付区分建物売買契約を締結したことが明らかである。

原告は、右約定は法定外の物権を創設するもので無効である旨主張するのであるが、右約定により駐車場専用権譲受人たる区分所有者が取得する権利をもって、殊更に他の区分所有者との共有地に対する用益物権と解さねばならぬ必然性はないので、右原告の主張は失当である。

また本件において、右被告会社が右のような駐車場専用使用権を分譲する権利を留保して土地付マンション分譲を行い、これに附随して各買受人との間に右のような約定をなしたからといって、これをもって公序良俗に反すると解すべき事由は見当らない。

そうすると、被告ユニチカ興発は原告に対しても、その間の約定により、本件専用駐車場の専用使用権を分譲してその対価を領得する権原を有していたことになり、同被告に対しその領得金の返還を求める原告の請求も理由がなく失当である。

よって、原告の被告らに対する請求をいずれも棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 大月妙子)

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